本
楡家の人びと

購読している毎日新聞には、土曜日、3ページにわたり「今週の本棚」という誌面があり、書評とともに本の紹介がされている。毎週、興味深く楽しませて読んでいる。
その中に「なつかしい一冊」というタイトルで、著名人などが、思い出の一冊を紹介するコーナーがある。選者が以前読んだ本なので、最近の本もあれば、『その本、今あるんですか?』と思われる本もある。
選者は、誰だったか忘れたが、春ごろ「楡家の人びと1~3部」が紹介されていた。作者の北杜夫氏の本は、過去に「船乗りプクプクの冒険」を読んだことがあり、とても愉快な話だった・・・と、思う。たぶん、、、。ふむ。
コメントを読んで、私の勝手なイメージとして「サザエさん」もしくは、宮本輝の「彗星物語」といった、家族の日常や家族愛的なものが綴られているものかと思い、読んでみようと取り寄せた。
ところがどっこい、いい意味で裏切られた内容だった。
※彗星物語は、30年程前に読んだことがある。中に登場するおじいちゃんが、めっちゃ面白い人で、微笑ましく、心温まる家族の話だったと記憶している。
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初版は、昭和39年4月に新潮社から刊行されたというので、随分、古い本である。その分、時代背景も、明治・大正~昭和初期(第二次世界大戦後)までとなっている。
家長は、楡(にれ)喜一郎。精神科医であり、破天荒な性格ゆえ、読むにつれ楽しませてもらったが、第一部で、あっけなく逝ってしまう。
(この本で知った事だけど、北杜夫氏は、精神科医だったのね~)
『え、え~~~~!!!3部あるうち、主たる人物がいなくなって、どうなる?楡家っ!』と、先の興味がそそられる。残された、喜一郎の妻、5人の子供たち、その孫たち、また、乳母や、書生、病院スタッフ・・・大きな楡家族、それぞれの人生が、書き連ねられていく中で、その時代の思想、歴史、精神病というもの、生活、食文化など、詳しく書かれていて、『100年前は、そうだったのかぁ~』と、感心することも多々あった。中でも、アスパラガスが、昭和初期から、日本で栽培されていたり、缶詰があったことには、驚いた。
第三部は、第二次世界大戦にさしかかり、楡家族の人たちが、戦禍とどうやってかかわっていたのかが書かれてあり、読む速度も遅くなってくる。また、今、コロナ禍で、私の強いる我慢など、この当時のことを辿れば、なんと浅はかなものか・・・と思わざるを得ない。
戦争は、あかん。絶対、あかん。
繰り返してはいけない。